相続税対策は家庭の事情に合わせて計画しないと失敗してしまう
相続税を節税する手段はたくさんありますが、対策のしかたを間違えると節税できないだけでなく、逆に負担が増えてしまうことがあるのでご注意ください。
本記事では、相続税対策に失敗するケースと、対策を講じる際に気を付けるべきポイントについて解説します。
相続税対策で失敗するケース6選
相続税の節税は、次のいずれかのケースに該当する場合、上手くいかない可能性が高いです。
事例1:申告期限までに対策が間に合わない
相続税は、被相続人(亡くなった人)が亡くなった時点の財産に対して課される税金であり、
相続税の申告書は相続開始日の翌日から10か月以内に提出しなければなりません。
10か月の申告期間は他の税金手続きに比べると長いですが、相続が発生してから相続財産の把握や遺産分割協議、申告書の作成をすべて完了させる必要があるため、与えられている猶予は想像よりも短いです。
また、相続税の特例制度は相続開始時点の状況に応じて利用できる種類が決まるものが多く、相続が開始してから選択できる手段は意外と少ないです。
事例2:特例の適用要件を満たしていない
相続税には、土地の評価額を最大8割減額できる「小規模宅地等の特例」や、配偶者が取得した財産に対する相続税を無税にできる「配偶者の税額軽減」など、節税効果の高い特例が揃っています。
しかし特例制度の選択肢が多くても、要件を満たしていなければ活用することはできませんので、適用要件を満たすための準備が必須です。
たとえば小規模宅地等の特例は、自宅の敷地や事業用の敷地が適用対象の土地となりますので、相続開始時点で土地が未利用の場合には適用できません。
また特例を適用する人が特定の相続財産を取得する必要があるため、遺産の分け方次第で特例が受けられないケースも出てきます。
事例3:相続人の話し合いがまとまらない
遺言書が残っている場合を除き、相続財産は相続人間で話し合い、遺産分割協議書を作成した上で相続税の申告書を提出することになるため、申告期限までに協議を完了させる必要があります。
未分割で申告することも可能ですが、相続税の特例制度の多くは遺産分割協議が完了していることを前提としています。
未分割の状態で申告期限を迎えてしまうと特例が適用できず、相続税を多く納めることになるので、円滑に話し合いを進めるのも節税するためには大切です。
事例4:税制情報をアップデートしていなかった
相続税は相続開始時点の法律に基づき計算することになりますが、相続税に関する法律は毎年改正されています。
税制改正は特例制度の創設・廃止だけでなく、適用要件の変更や基礎控除額の見直しなど様々です。
以前であれば適用可能だった特例制度も、法律の改正により適用できなくなっていることもありますので、相続税対策は最新の税制に基づいて行わなければなりません。
事例5:相続した後のことを考えていなかった
税金対策で最も重要なのは納税額を抑えることですが、相続税に関しては相続以後のことも考えて対策する必要があります。
相続税の特例制度は、配偶者など特例を適用できる人が限られているものも多く、特定の相続人が相続財産を集中的に取得することで相続税を抑制することが可能です。
ただ1人の相続人が大半の相続財産を取得してしまうと、他の相続人は相続財産を取得できないため、相続人間の揉め事に発展するリスクが潜んでいます。
相続の話し合いが原因で相続人同士の関係が悪化するケースもありますので、相続人全員が納得する形で遺産を分けなければなりません。
事例6:相続税を専門としていない税理士に相談した
経営者であれば、顧問税理士に依頼して相続税の申告書を作成してもらうこともできますが、適切に相続税の節税アドバイスを受けられるかは別問題です。
税理士にも得意・不得意の税目がありますので、法人を専門にしている税理士の中には、相続税・贈与税に関する知識があまり豊富ではない方もいます。
申告内容は正しくても、特例の未適用などが原因で相続税を余分に支払っている事例もありますので、税理士選びも相続税対策では重要です。
相続税対策に失敗しないためにやるべき4つのこと
相続税対策に失敗しないために、次の4つのポイントを理解した上で対策を講じてください。
必要な対策を必要な分だけ実施すること
相続財産の総額が相続税の基礎控除額以内に収まる場合、相続税は発生しませんので、相続人が相続財産をどのように分割しても、相続税は課されません。
相続税対策が不要なのにもかかわらず、様々な対策を講じようとすると、対策するための費用だけが増えるだけで本末転倒です。
節税は手元に少しでも財産を残すために行うものですので、最初に相続税対策が必要なのかを確認した上で、必要に応じた分の対策を実施してください。
相続税対策は生前中から実行すること
相続税は相続開始時点を基準に計算するため、相続時点で節税しやすい状況を作ることが重要です。
たとえば相続税の基礎控除額は、相続人の人数が1人につき600万円増加しますので、生前に子の配偶者や孫などを養子にすることで基礎控除額を増やすことも可能です。
(基礎控除額が増える養子の数には上限があります。)
相続財産は、相続税の計算のために相続開始時点の価値を算出しなければなりませんが、相続財産の種類を替えるだけでも節税効果が得られます。
現金1,000万円と時価1,000万円の不動産の価値は同じですが、相続税評価額に置き換えると、不動産の方が価値は低くなることがほとんどです。
ただし、相続が発生した以後に現金を不動産に換えたとしても相続税の節税効果はありませんので、相続税対策は生前中から行う必要があります。
二次相続のことも考えて遺産を分割すること
近年の相続税で重要度が増しているのが、次に発生する相続(二次相続)を考慮した対策です。
平均寿命が延びている昨今、相続が開始した時点で相続人が高齢者であることは珍しくありません。
たとえば配偶者控除の税額軽減を適用するために、配偶者が全財産を相続する方法もありますが、配偶者が高齢であれば、遠くない未来に二次相続が発生することは想定されます。
再婚する場合を除き、残された配偶者に配偶者はいませんので、二次相続で配偶者の税額軽減を適用することはできません。
そのため、相続税対策を講じる際は二次相続のことも考えていただき、場合によっては相続税を支払うことになったとしても、複数の相続人が相続財産を引き継ぐことも必要です。
相続人だけで相続税対策を講じないこと
相続税対策は相続人だけで実行するのではなく、税理士に相談しながら対策を練ってください。
相続税の申告は、申告する機会が何度も発生する税金ではないので、一部の専門家を除いて、申告手続きに慣れている人はいません。
効果的な特例制度を利用できる状態にあったとしても、制度の存在を知らなければ特例を適用することはできませんし、不慣れな相続人が申告書を作成すると計算ミスが起る可能性があります。
税務署から誤りを指摘された場合、本税だけでなく加算税・延滞税も納めることになりますので、リスクを回避するためにも専門家に申告書作成を依頼することも選択肢に入れてください。
まとめ
相続税の課税割合は年々増加しており、一般家庭においても相続税の申告が必要になるケースが増えています。
対策を一つ講じるだけで、百万円単位で相続税を節税できる制度もある一方、特例を適用しないまま申告してしまうと、相続税を百万円単位で多く支払うことになりかねません。
相続税に関する法律は毎年変わっていますので、最新情報を確認していただき、不明点がある場合には相続税専門の税理士事務所にご相談ください。