相続税の納税猶予の特例の種類と適用要件・免除要件を解説
相続税が高額になる場合、納税猶予の特例を利用することで、申告時点での納税額を抑えることができます。
一定の要件を満たせば、納税が猶予された相続税が免除になる規定も存在しますので、今回は相続税の納税猶予の特例の種類と各制度の特徴について紹介します。
相続税の納税猶予の種類
相続税の納税猶予は、特定の相続財産を引き継いだ相続人が適用できる制度で、対象の相続財産に対応する相続税の支払いが猶予されます。
猶予措置なので、猶予期間が終了すると相続税を支払うことになりますが、
納税猶予の特例を適用した相続人が死亡するなどの要件に該当したときは、猶予されている相続税が免除されます。
<相続税の納税猶予の特例の種類>
・非上場株式等の納税猶予
・個人の事業用資産の納税猶予
・山林の納税猶予
・医療継続の納税猶予
・特定美術品の納税猶予
農地等を相続した場合の納税猶予の特例
「農地等を相続した場合の納税猶予の特例」は、農地に対して適用できる制度です。
相続税の納税猶予の中でも代表的な制度である本特例は、
農業を営んでいた被相続人から農業を引き継ぐ相続人が農地を取得し、相続以後も引き続き農地として利用する場合に適用することができます。
被相続人が営んでいた農業を農業相続人が引き継ぐ必要があるため、農地を相続するだけでは特例を適用することはできません。
一方、農地等を相続した場合の納税猶予の特例を適用した後、次のいずれかに該当した場合、猶予されていた相続税の支払いは免除されます。
<納税猶予が免除になるケース>
・特例の適用を受けた農業相続人が、特例農地等の全部を贈与税の納税猶予の特例に基づき農業の後継者へ生前一括贈与した
・相続税の申告書の提出期限の翌日から20年経過
相続税の申告書の提出期限の翌日から20年経過による納税猶予の免除規定は、
対象となる土地が限られていますので、農業相続人は基本的に死亡するまでの期間、農業を継続する前提で特例を利用しなければなりません。
なお、農業相続人の相続人へすべての特例対象地を贈与し、贈与税の納税猶予を適用するときは相続税の納税猶予が免除されますので、生前中に農業経営者を世代交代することは可能です。
非上場株式等に対する納税猶予の特例
「非上場株式等に対する納税猶予の特例」は、会社の後継者である相続人等が、一定の要件を満たした非上場会社の株式等を取得した場合、その非上場株式等に係る相続税が猶予される制度です。
非上場株式等に対する納税猶予の特例には、一般措置と特例措置の2種類あり、
適用要件や対象となる株式数の上限など、相違点がいくつかあります。
一般措置の納税猶予を適用する場合、対象となる株数は総株式数の最大3分の2までとなっており、
納税猶予の特例を適用したとしても、株式を取得した際に発生する相続税の20%は納税する必要があります。
一方、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの期間において適用できる特例措置の納税猶予は、全株式に対して適用することが可能です。
特例を適用する株式に対応する相続税は100%猶予対象になるなど、一般措置よりも納税猶予の効果は大きいです。
納税猶予が免除される主なケースは後継者の死亡ですが、特例措置においては事業の継続が困難な事由が生じた際も猶予税額が一部免除されます。
<一般措置と特例措置の違い>
一般措置 | 特例措置 | |
---|---|---|
事前の計画策定等 | 不要 | 特例承継計画を提出 (平成30年4月1日から 令和6年3月31日まで) |
適用期限 | なし | 平成30年1月1日から 令和9年12月31日まで |
対象株数 | 総株式数の最大3分の2まで | 全株式 |
納税猶予割合 (相続税の場合) |
80% | 100% |
承継パターン | 複数の株主から1人の後継者 | 複数の株主から 最大3人の後継者 |
雇用確保要件 | 承継後5年間は平均8割の 雇用維持が必要 |
弾力化 |
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | なし (猶予税額を納付) |
譲渡対価の額等に基づき再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額が免除 |
個人版事業承継税制
個人版事業承継税制である、「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除」は、
青色申告に係る事業を行っていた被相続人から事業を引き継ぐ相続人が、特定事業用資産のすべてを相続した場合に適用できる特例です。
平成31年1月1日から令和10年12月31日までの相続において適用することが可能で、特例事業用資産に係る課税価格に対応する相続税の納税が猶予されます。
後継者の相続人は、相続以後も特例事業用資産を事業用として使用しなければなりませんが、後継者が死亡した場合、猶予されていた相続税の納税は免除されます。
特定山林を相続した場合の納税猶予の特例
「特定山林を相続した場合の納税猶予の特例」は、特定森林経営計画が定められている区域内に存する山林を相続した際に適用できる制度です。
山林を引き継ぐ相続人は、自ら山林経営を行う必要がありますが、特例山林に係る課税価格の80%の相続税の納税は猶予されます。
林業経営相続人が死亡したとき、山林納税猶予税額は免除されますが、免除に際しては死亡日から同日以後6か月を経過する日までに、一定の書類を税務署に提出しなければなりません。
医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例
「医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例」は、医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人であるときに適用できる制度です。
医療法人の持分を引き継いだ相続人は、特例の適用を受ける持分の価額に対応する相続税を認定移行計画に記載された移行期限まで猶予されます。
また、次に掲げる場合に該当したとき、届出書を提出することで医療法人持分納税猶予税額の全部または一部が免除されます。
<納税猶予が免除になるケース>
該当ケース | 免除額 |
---|---|
認定医療法人の持分のすべてを放棄した場合 | 医療法人持分納税猶予税額 |
認定医療法人が基金拠出型医療法人への移行をする場合において、持分の一部を放棄し、その残余の部分をその基金拠出型医療法人の基金として拠出したとき | 医療法人持分納税猶予税額から基金として 拠出した額に対応する部分の金額 を控除した残額 |
特定美術品についての相続税の納税猶予
「特定美術品についての相続税の納税猶予」は、被相続人が寄託先美術館の設置者と特定美術品の寄託契約を締結し、特定美術品を引き継いだ相続人が寄託先美術館の設置者への寄託を継続するときに適用できる制度です。
納税が猶予される相続税は、特定美術品に係る課税価格80%に対応する額で、次のいずれかに該当する場合、美術品納税猶予税額は免除されます。
<納税猶予が免除になるケース>
・特定美術品を寄託先美術館の設置者に贈与した場合
・特定美術品が災害により滅失した場合
相続税の納税猶予の特例を適用する際の注意点
相続税の納税猶予の特例は、適用する制度ごとに適用要件があります。
相続税の申告書には、納税猶予を適用する旨の記載はもちろんのこと、添付書類をすべて揃える必要があり、申告期限を過ぎてから特例を受けることはできません。
一般的な特例制度は申告する時点で適用要件を判定するのに対し、相続税の納税猶予は申告後も対象財産を特定の用途に使い続けるなど、継続要件が存在します。
継続要件に該当しなくなった場合、その時点で納税猶予の期間は終了(確定)し、猶予されていた相続税を納めなければなりません。
納税猶予の確定事由に該当した際は、納税猶予額に加えて利子税も支払うことになり、納税が猶予されていた期間が長いほど利子税の額は増加します。
また、相続税の納税猶予の特例の免除要件のほとんどは、特例適用者の死亡なので、対象財産を相続以後も特定の用途に供することが前提です。
したがって特例を適用する際は、要件の適否はもちろんのこと、申告後の状況も想定して制度を活用するか判断してください。
まとめ
相続税の納税猶予を適用すれば、相続税を支払わずに相続財産を引き継ぐことも可能ですが、
申告時点はもちろんのこと、申告書を提出した後にも適用要件がある点には注意してください。
また、提出書類漏れがあるだけでも特例適用は否認されますので、納税猶予の特例を適用する際は、相続税に精通している税理士へ相談することをオススメします。