相続税の申告期限までに遺産分割が完了していない場合の対処法
亡くなった方が一定以上の財産を所有していた場合、
相続税の申告手続きが必要です。
遺産分割協議書を作成していなくても、
相続税の申告書を提出することはできます。
しかし、未分割の状態で申告するとなると、特例制度を適用できないなどのデメリットがありますので、本記事で対処法について解説します。
相続税は10か月以内に申告しなければならない
相続税の申告期間は、被相続人(亡くなった人)が死亡したことを知った日の翌日から10か月です。
通常、「死亡したことを知った日」は死亡日をいい、亡くなったのが4月10日であれば、相続税の申告期限は翌年2月10日となります。
(申告期限が土曜日や日曜日、祝日などに該当する場合、これらの日の翌日が期限です。)
相続税の申告書の提出先は、被相続人の住所地を所轄する税務署で、相続人全員が協力して1つの申告書を作り上げます。
相続人が全国各地に点在する場合、遺産について話し合うのにも時間を要しますので、早い段階から相続税の申告準備をしなければなりません。
未分割の状態で相続税の申告書を提出するデメリット
相続財産が相続税の基礎控除額を超える場合、遺産分割協議が完了しているかにかかわらず、期限までに手続きをする必要があります。
未分割の状態でも申告書を提出することは可能ですが、以下の問題が発生しますのでご注意ください。
特例制度が適用できない
未分割状態で相続税の申告書を提出する最大のデメリットは、特例制度を適用できないことです。
相続税には色々な節税制度が用意されており、
たとえば被相続人の配偶者が適用できる「配偶者の税額軽減」の特例は、
配偶者が取得した財産が1億6千万円以下であれば、配偶者に対する相続税を全額控除できます。
しかし、配偶者の税額軽減は遺産分割が完了していることが適用要件となっているため、未分割の状態で特例を適用することはできません。
また、配偶者の税額軽減以外の特例制度についても、基本的に遺産分割が完了していることが要件となっていますので、節税面を考えると遺産分割協議の完了は必須です。
法定相続分に応じて相続税を支払わなければならない
相続税は、相続人が取得した相続財産の額に応じて相続税を支払うことになります。
1人の相続人が全財産を取得した場合、その人が相続税を全額納めることになるため、相続財産を取得していない他の相続人は相続税を支払う必要がありません。
それに対して、未分割の状態で相続税の申告書を提出するときは、各相続人が法定相続分の割合に応じた額を納めます。
相続人が妻と子2人の計3人の場合、法定相続分は妻が1/2、子は各1/4です。
相続税の総額が1,000万円であれば、申告期限までに妻が500万円、子が各250万円を遺産が取得できていない状況下で、納税資金として捻出しなければなりません。
遺産分割完了後に再度申告書の提出が必要となる
未分割の状態で相続税の申告書を提出し、その後遺産分割が完了した場合には、遺産分割協議書の内容に基づき再計算した申告書を提出しなければなりません。
当初申告より相続税の納税額が増える相続人は、修正申告書を提出し、差額の相続税を納めることになります。
納税額が減少する相続人については、更正の請求書を提出することで、納め過ぎた相続税の還付を受けることができます。
ただ更正の請求書の内容に誤りがある場合や、添付書類が不足していると、還付手続きが行われませんので注意してください。
延納・物納制度が利用できない
相続税は、申告期限までに現金一括納付するのが原則ですが、相続財産の種類や相続税額によっては、延納制度や物納制度を利用して納税することが認められています。
「延納制度」は相続税を分割して納付する制度、「物納制度」は金銭以外の財産で相続税を納める制度です。
延納制度と物納制度は申請制となっていますので、承認を受けた場合に限り利用することが可能です。
ただ両制度とも遺産分割が完了していることが前提であるため、未分割の場合には制度を利用できず、相続税は期限までに一括納付しなければなりません。
期限までに納税ができなければ延滞税がかかりますし、未納状態が続いていると財産の差し押さえが行われる可能性があります。
未分割の状態で申告する際のポイント
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまっていなくても、一定の手続きを行えば、後から特例制度を受けることができます。
特例を適用する見込みがあるときは「分割見込書」を提出すること
期限内に相続税の申告書を提出する時点で未分割の状態であったとしても、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付していれば、後から特例を適用することが可能です。
「申告期限後3年以内の分割見込書」は、配偶者の税額軽減などの特例を適用する見込みがあるときに提出する書類で、相続税の申告期限から3年以内に分割された場合、特例制度を適用した申告書を提出できるようになります。
分割見込書を提出していないと、分割協議が完了しても特例は適用できませんので、分割見込書の提出漏れには気を付けてください。
遺産分割協議書を完了したらすぐに申告書を再提出すること
「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出後、遺産分割協議が完了しましたら、できるだけ早く修正申告書(更正の請求書)を作成し、提出してください。
分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求書を提出すれば、払い過ぎていた相続税の還付を受けられます。
修正申告をするときは、通常申告期限から納付が完了するまでの期間に応じて延滞税が発生しますが、遺産分割協議が完了した日の翌日から4か月以内に修正申告書を提出すれば延滞税はかかりません。
申告期限から3年を経過しても遺産分割がまとまらない場合
「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出後、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が完了しなかったときは、後日分割協議がまとまったとしても特例は原則適用できません。
しかし「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、申請が認められた場合に限り、申告期限から3年を経過した後に遺産分割が完了したとしても特例を適用することができます。
「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」とは、申告期限後3年以内に分割されなかったことにつき、やむを得ない事由がある場合に提出する書類です。
承認申請書は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに提出しなければなりません。
遺産分割の話し合いがまとまっていないことだけを理由に、申請が認められることはないため、基本的には3年以内の遺産分割完了を目指してください。
申告期限までに遺産分割をまとめるためにやるべきこと
申告期限までに遺産分割協議書を作成し、相続税の申告書を提出するためには、早い段階で被相続人の全財産を把握することが大切です。
被相続人自身が生前に相続財産の存在を明らかにすることで、相続人間の揉め事を軽減する方法もありますし、遺言書を作成しておけば未分割の状態での申告を防ぐことも可能です。
申告期限までに遺産分割協議がまとまらなかった場合、未分割での申告は避けられませんが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば後から相続税の特例制度を適用することができます。
いずれにしても相続税の手続きは時間との勝負なので、相続が発生する前から対策しなければなりません。
まとめ
相続財産が多い家庭ほど納税額が大きくなるため、相続税対策の重要度は増します。
相続税の特例制度を最大限活用できれば、数千万円単位での節税も可能ですが、特例制度は遺産分割が完了していることが前提です。
相続財産の種類や相続人の状況によっては、遺産分割の話し合いが難航することも考えられますので、必要に応じて専門家に相談していただき、家庭の事情に合わせた対策を講じてください。